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ぼっち・ざ・同人! ~同人音楽の人間が見た『ぼっち・ざ・ろっく!』~【きらら Advent Calendar 2022】

この記事はまんがタイムきららアドベントカレンダー 第19日目の記事になったような気がします。

adventar.org

 

今季きららMAXより待望の『ぼっち・ざ・ろっく!』アニメが放映されました。
音を作る者として見逃せないアニメになりましたが、全体的に高評価な感じで何よりです。

そんな中で自分の経験とかも踏まえて、いろいろ書いてみたいことを出していこうと思います。

 

 

自主制作音楽に対する捉え方

物語の主軸であり、回が進むにつれて成長しまくるバンド、結束バンド。

オリジナル曲を制作しており、作内ではオリジナルアルバムを作成しているような言及もありました。なかなか精力的なバンドですね。

しかも全員高校生、1年生と2年生が2人ずつという若いときからここまで精力的に音楽制作をしているというのはなかなか目を見張るものがあります。

さらにこの時点ですでに商業を見据えての曲作りをしているというのも注目点です。音楽に人生を賭けているというのも、なかなか高いモチベーションを持っているバンドなのではないでしょうか。主人公のように理由がいくらネガティブだろうとも。

 

……えーさて、隙あらば自分語りゾーンに入っていきます。

この記事に流れ着くような方の一部はご存知かもしれないですが、かくいう私も同人音楽制作を趣味としている人間であります。

音作り自体は高校時代に始まり、大学入ってすぐ個人サークル「Limpid Path」での活動を始め、最近はオリジナル曲をCDとオンライン配信とで垂れ流しているような人間でもあります。自分で言うのもどうかと思うけど若さってすごい。

商業方面に向かう気は全くなく同人で細々と曲作りしており、今度の冬コミもサークル貰っておりますが曲制作が未だに間に合っていません。助けて。

soundcloud.com

 

……宣伝タイムはこの位にしておいて。

今まで自分はロック調な曲をメインに作っている、という訳ではなく、生音を演奏できるというわけでもありません。寧ろよく言われるのがカワイイ系の曲調らしいということです。狙ってないのに。その点では結束バンドから真逆の立ち位置と言ってもいいかもしれません。

とは言え、このとおり自分も音楽をつくる身でありますので、ついついその視点でもぼざろという作品を眺めてしまうのです。

端的に行ってしまえば、曲が出来るのは楽しい、でもそれ以外は意外とキツい、ということ。

 

意外に結構やってくる生むという苦しみ

当然ですが曲を聞いてもらい、もしくは売るという行為には、まず曲を作るという作業が必要になります。

例えば長年曲作りをしていると、フレーズ自体は突然浮かんだりとかこういう流れを組み込みたいとかの断片的なアイデアなどが生まれることは比較的よくあることになります。

しかし、そんなフレーズいくつかが思い浮かぶだけでは曲になりません。フレーズはフレーズのまま。これをどのように曲に昇華させていくか、あるいは「繋がる」フレーズを作っていけるか、という点が「曲」作りで重要な点になってくるのではないかと思っています。

いろんな曲を聞きまくっている人であれば分かるかもしれないですが、この世の中の殆どの曲は、複数種類のフレーズをうまくつなぎ合わせて作られているものです。たった1つのフレーズだけで曲を作ったり、もしくは数分かけて1つのフレーズになる曲作ったりということは、ナイトは言い切れませんが非常に難しいものになるでしょう。

さて、フレーズごとに作るのが比較的楽みたいな書き方をしていましたが、まあ実際のところ普通に楽なんかじゃないです。何なら曲として成立する作品を作り上げる中ではここが一番難しいのではないでしょうか。今まで思いついてきたフレーズと「繋がるように」新しいフレーズを考えるということは容易でないことであり、それがまた作曲者としての腕の見せ所でもあるのです。

標準的な構成の曲では最低限「イントロ」「Aメロ」「サビ」くらいのフレーズは欲しくなってきます。そこに曲によっては「Bメロ」「Cメロ」「間奏」「アウトロ」などが加わってきて、それらを例えば
「イントロ」→「Aメロ」→「Bメロ」→「サビ」→「間奏①(イントロアレンジ)」→「Aメロ」→「Bメロ」→「サビ」→「Cメロ」→「間奏②(独自フレーズ)」→「間奏①(イントロアレンジ)」→「Bメロ」→「落ちサビ(サビのアレンジ)」→「サビ」→「アウトロ」
のような構成に仕立て上げることによって1つの曲を仕上げていくのです。

……もうお分かりかもしれないですが、曲という作品1つを作るためには、上記の例だと7つのフレーズ(+アレンジいくつか)が必要になってきて、その全てが問題になるような違和感なく繋がっている必要があります。手数がえげつない
(実際には他のフレーズから持ってきてうまく繋がるように調整して、ということもありえますが。自分みたいに。)

商業で音楽をやるとなると、この行為をコンスタントに仕立てていく必要があります。努力の領域もありますが、才能というのも間違いなく必要になってくる世界と言えるでしょう。商業バンドへの未知はこのような点もハードルとなりうるのです。

この難しい作業があるからこそ、曲が出来たときの達成感はまた格別なのです。自分が作った曲はいくらでも自慢できるものになっていきます。

 

金銭という現実から目を背けたい

……いや、いくら曲を作ったとしても、その曲を自慢したければ曲を公開する必要がありますし、あるいはその対価をもらいたければ「売る」という行為をする必要もあります。

確かに商業で引き取ってもらえれば、曲を「売る」ための経費だったり販売戦略だったりという点はレーベルに一任できます。もちろんその分の費用はちゃんと引かれていきます。

しかし当初の結束バンドのような自主制作音楽については、売れればその分実入りはありますが、費用も全部自分たちに振りかかってきます。

直接的な費用であればCD制作費

同人誌制作で「過大に作りまくると制作費用と在庫で死ぬ」ということを身を以て知っている人であれば、同人誌の場合は少数だと単価が高くなり、多数になればなるほど総額が段々一定の金額に収束していく……という流れが見についているかと思います。

CDの場合、「コピーCD」という非常に便利なものがあります。紙の同人誌における「コピー本」のようなものと捉えることもできますが、音楽の音質自体は変わるものではないため、自主制作音楽の世界では比較的多用されているように思えます。少数生産であれば少数なりの価格で済むため、かなり始めやすいという点はあると思います。

ただ、コピーCDの場合ほぼ完全に枚数依存の料金となってくるため、多数部制作する場合は当然それなりの費用となります。また大量にかつ盤面含めて本格的に作る場合は、プレス版による制作が選択肢となってくることでしょう。ただし、価格設定がやや特殊で、例えば同人CDプレス大手のポプルス社の場合、最低ロットが300枚で57,600円、1,000枚で65,000円と1,000枚まではほぼ定額になるのに対し、5,000枚で300,000円という価格になり、1,000枚を超えたとたんに従量に近い金額となってきます。他社で比較しても概ね1,000枚までがほぼ定額、それ以上は従量料金というところが多いようです。

www2.popls.co.jp

ゆえにCDプレスは最低ライン1,000枚が相場なのでは?という考えになるかと思いますが、当然売れなければ、当然みんな大好きなトラウマ「在庫地獄」が誕生します。1,000枚売れるとの確信があれば別(どうぞご勝手に)ですが、作りすぎも考え物になってくるのです。

まあコピーCDであれば安いかと言われれば必ずしもそうとは言い切れない部分もあります。

当サークルがお世話になっている協和産業社の場合、CDコピー自体は100枚で6,700円となります。安いように見えますが、ここでの罠は盤面印刷等が別料金ということ。例えばカラー盤面印刷をするとなれば、ここに(100枚)6,200円が降りかかってきます。さらにケースももちろん別(ジュエルケース100個で3,400円)ですし、ジャケットの印刷などもやってくるとするとそこそこの金額になってしまいます。単純にCD等の原価だけで単価200円以上はしてます。

www.kyowainet.co.jp

 

さらにバンドでの収録となれば当然スタジオでの収録となりますので、その費用も必要になります。更にライブステージに立つとすれば、駆け出しのバンド等なら原作やアニメでも描写されていたようなライブハウスのチケットノルマも発生することになります。(ちなみに同人作者だとイベント参加代やその付随費用がこの辺りに相当してきますね)

もちろん機材もちゃんと揃えなければ演奏もできませんし、演奏したデータを編集してマスターCDを焼くにはPC等も必要になってきます。

さて、ここまでで合計いくら掛かったでしょう? 自分は途中から数えるのをやめました。

 

曲は時間を割く、ゆえに知らない人の曲は売れない

ところで皆さん(皆さんが同人誌を出している前提みたいな言い方)、同人誌ってどうやって宣伝していますか?

Twitterに絵を流したり、Pixivで予告を出したり、あるいは表紙買いなんてのもあるかもしれないですね。絵は一瞬でも目に入れば全体像が一気に情報として入ってくるので、比較的時間をとらずとも魅力は伝わってくれるものでしょう。

……そうじゃない!みたいに絵師さんから怒られたり変な言い方になっていたらすみません。

言いたいことは、音楽にはどうしても時間という要素が必要になるということ。

どんなにいい音楽があったとしても、それが「いい音楽」であると伝わるまでには少なくとも数秒かかってしまいます。感覚で音楽を音楽と認識できるまでには時間がかかりますし、そこからどんな音楽かというのを聞き、そしてそれが自分の好みになるか……ということを短い時間だとしても考えていくことが必要になってきます。

そして今のSNS時代、音楽も数を稼いで多数聞き流されていく時代になってきています。「普通の曲」であれば記憶にさえ残らない、もちろん知名度や売り上げになどなおさら……という世界になっていきますから、「時間を掛けて聞いてもらう」ことがこれまで以上に重要になってきています。ただ知らないアーティストの局なんてあんまり聞いてもらえないから……の以下無限ループです。そのため、音楽を聞いてもらえる、という第1ステップに立つための努力が非常に重要になってきます。

結束バンドの場合、メンバーの親戚が経営するライブハウスというこれ以上にない環境があるので、ここは大変に恵まれている(ついでに普通の音屋とかなら普通に嫉妬する)環境だと思います。そうでなくても、例えば今の時代であればYouTube/SoundCloudとかで無料公開するだとか、何か他の作品とタイアップして流してもらうだとか、そのような手法をとっている音楽関係者は、最近では自主製作に限らず大手レーベルにもかなりよく見受けられる傾向だと思います。

更に言うと、同人誌などの絵による作品の場合は表紙や裏表紙のアートワークについても基本的に自分で用意することができます(装丁をプロに任せるという手段もあるはあるのですが、それはそれとして)。対して音楽をメインで活動している人間にとってはイラスト等は全く別の庭になります。ただ、それが無いと「人を音楽に引き留めるためのビジュアルが無い」状態になってしまいます。動画などだとしても、その背景だったりサムネイルで興味を持ってもらえなければ、視聴者は選んでくれません。

音楽を売るのに見た目を重視しなければいけないというのも冷静に考えれば不思議な話のようにも思えますが、ただ現実として見た目の強さが必要になっているのも確かです。

 

そもそもCDで出すのが間違いなのではないだろうか

音楽のデジタル化は、イラストだったり漫画だったりといったもののそれより遥かに前よりあった流れでした。「CD」という媒体です。

電子書籍化が2010年代ごろから流行していたのに対し、CDは1980年代に登場後、かなり早いペースでレコードというアナログの媒体を淘汰し、90年代の半ばを過ぎれば既に主要な音楽流通の手段となっていました。Windows95の流行や2000年代のiPod/iTunesの流行以降、パソコンでのCD利用も順次普及していき、音楽とコンピューターは利用者側にしてもかなり密接に関わりのある存在になっていました。

しかしこの「デジタル」は、書籍などほかのメディアのデジタル化とは性質が異なっていました。2000年代のブロードバンド化の傾向でインターネットでも大容量のデータが取り扱えるようになり、上記の電子書籍化等もこれを前提としたオンラインによるコンテンツ供給となっていました。それ以前よりあったCDというメディアは、ご存知の通り物理的に形を形成し、その盤面にデジタルデータを収録していますので、デジタルではあるが物理というなかなか不安定な立場にいる存在でした。(この話をするとパソコンゲームとかもそうですね)

音楽にとってもインターネット化の波は例外ではなく、例えば日本だと真っ先にFlash動画で寝た曲が流行り、YouTubeニコニコ動画などで多くの音楽が動画として投稿されてきましたが、それでも音楽を売る手段といえば多くがCDでした。CDをパソコンで取り扱うのにはリッピングという手間も必要になります。

しかしiTunesIPhoneの爆発的流行の後、音楽についても電子販売が段々と躍進を見せるようになってきました。スマートフォンでは音楽はストリーミングやダウンロードをして聞くものになっていますし、小型PCやタブレットにも今やCDドライブを付属しているものはそんなに多くなくなってきているのではないでしょうか。

加えてインターネット音楽の世界では、2010年代後半以降Spotifyに代表されるような「サブスク型ストリーミング」という形態が一気に躍進していきました。定額の範囲内であれば契約のある音楽レーベル・アーティストの曲がいくらでも聞き放題となっていったのです。

……長々と話しましたが、先ほどの話題にも通ずる通り「知らない人の音楽は聴かれない」時代になってきており、さらに言えば「知らない人のCDがあってもすぐ買おうとは思えないし、買ったところで聞く手段がない(orどうせリッピングが面倒)」という時代になっているのです。ますます音楽CDは肩身の狭い時代となってきました。

こんな中で自主音楽のバンドも同人音楽も引き続きCDでやっていくのか?というところになってきます。結束バンドも自主CDを制作していましたが、それもこれからは通用していくのか?というのが今後の自主製作、そして同人音楽の全体の課題となってくるように思えます。

蒐集欲を満たすという意味合いでは物理媒体という優位性もありますが、実際ネット発のアーティストというジャンルの活躍も目覚ましい昨今、蒐集性と集客性という2つの視点は相容れないものとなっているかもしれません。
(そう考えるとguiterheroさん中学生で動画音楽投稿というジャンルに目覚めてるの先見性が高いなぁ……)

 

自主制作音楽と結束バンドの展望

ここまで長々と書いてはみましたが、結局のところ大変なことをして急に変わっていく世の中で、自主制作の音楽という本当に地道な環境からプロのバンドになりたいという決意をしてそれに突き進んでいく結束バンドという存在の強さが改めてうかがえると思います。

自主制作の音楽やバンドも、我々のような同人音楽も、一歩先を見据えて動いていくというのはなかなかに大変ではあります。そんな中でも自分で作った曲の面白さ、ファンの存在の心強さ、そして音楽制作という活動の熱さを知っている人間だからこそ見える光景があるのでしょう。

これから自分も音楽を楽しんでいき、それと同時に結束バンドの将来も見守っていければと思っています。